武道とスポーツ、ハンターと求道

 ここ十数年ほど、相撲界が提供してくれる話題は多彩だ。血沸き肉踊るワクワクする話題、裏社会との接点もうかがわせるような違法事件に絡む話題、そして今回の暴行事件と、週刊誌、マスコミの為の慈善事業の大盤振る舞い。

どこへ行くのか相撲界。

 

 「勝つこと」が一番「勝つために何をするか」がスポーツだ。ルールの範疇であればギリギリの汚いことと批判されるような行為でも、許され、むしろ賢いと称賛される。勝ち負けに最大にこだわる。勝つもの、強いものは「偉い」。

 一方武道は、「自分のやるべきこと」を極める。「勝つか負けるか」はその結果であり、勝ち負けにはこだわらない。批判されるのは自分のやるべきことにひたむきにならず楽に走ること、勝ち負けを最優先にこだわること。

 オリンピックはスポーツの祭典、第4回ロンドンオリンピックで「参加することに意義がある」という言葉をクーベルタン男爵が引用したことがあるが、基本は勝つこと。「一番でなければ二番も最下位も一緒」という選手やスポーツ関係者も多い。

そのスポーツに武道が参加したのが柔道だ。するとどうなっただろう? ヘーシンクの時代まではまだ柔道であったが、次第に勝ちにこだわり、レスリング型のようなJUDOとなっていった。現在ではその反省からなのか、技へのこだわりを大切にした本来の柔道に戻りつつあるが、やはりJUDOであることには変わりない。国際スポーツ界では嘉納治五郎の柔道には戻りえないのだ。なぜなら、世界のスポーツと日本の武道には「ハンター」と「求道」の違いがあるからだ。獲物をしとめたものへの称賛、憧れと、道を究めて成し遂げたものへの称賛と憧れはその構造が本質的に違う。

 

 相撲界はある時期から武道にスポーツが徐々に入り込んできた。勝つことによる経済的なメリット等が他の本来大切にしてきた価値観を越えたためなのだろうか、外国人が自ら求めて相撲界に入る段階を踏み越えて、積極的に外国人をスカウトすることにつながっていく。結果として「ハンター」集団が増えていく。ハンターは勝つための稽古を重ね、勝つための戦術を磨くため強い。自分の相撲をとりきったことで満足するだけの姿勢でいては勝てない。

 このようにスポーツ化が進む(黙認する)中で、協会はじめ関係者はファンも含めて、「神事」「相撲道」言葉、概念を都合のいいように使い分けている。

 断っておくが、外国人力士も相撲道(角道)を身に着けようと努力している人も多い。日本人の中にも相撲道と離れたスポーツとしての相撲の範疇の人もいる。

 

 相撲界(相撲協会)がどのように考えて将来の相撲界をつくるのかの問題を問いている。

 

 「スポーツ」であるならば、互いに呼吸を合わせての立ち合いというあいまいなものは合わない。互いに組んでから始めるか、ゴングで立つようにするべきであろうし、厳密に四方八方からのビデオ判定をするべきだろう。行司はベテランでなくてもかまわない。番付も星数だけで決定し、場合によっては張り出しが沢山出来ても、大関横綱が全くいない場所があってもかまわないとすべきだ。

 タケミカヅチの国譲りに端を発した「神事」あるいは武道であるとするならば、日本の精神美学を貫いた、組織や仕組みとするべきであろう。

両方をミックスさせたものを目指すのであれば、新しいモデルを作ることを相撲界は宣言するべきだ。

 

  何事も先駆者は素晴らしい、自分も自分もと自分で考えず先駆者の猿真似で追随するのが情けないのだ。そして、その状況を本質を深堀せずに、流れに任せてきた結果が今である。

 

 これからの大相撲、神事、相撲道を貫くのか、格闘スポーツの一種として生きていくのか、はたまた両者をミックスして別のモデルを作り上げるのか。

 

 今一つ、相撲界の持っている課題がある。

 かつては、体格に恵まれ運動神経が良いトップクラスの少年がその能力を生かして生きていくプロの世界は野球と相撲であったが、今では、サッカー、バスケットボールなど他のプロスポーツも増え、必ずしもトップクラスの運導能力を持った少年が相撲界に入ってこない。

 一方外国人の中には、その国でのトップクラスの運動能力を持った若者が相撲界に入ってくる。日本人がトップになりにくいのは必然で、この傾向はますます強くなるだろう。

 相撲界で、ほかのスポーツでの一軍に相当し、充分な収入が得られるのは十両以上の70名(幕下の給料は年90万円、十両は1600万円)、力士全体の10%だ。他のスポーツ界はどうだろう。プロ野球は12球団×28人で320名が常時一軍、サッカーではチーム数も多くJ1ベンチ入りで414名、いかに相撲界で活躍することが大変かがわかる。若者が相撲を目指さなくなるはずだ。

 この際、大正の末まで存在した大阪相撲を復活させ、東京相撲と大阪相撲の二本立てとしてはどうだろう。関取が140名に増える。そして年一回、関取が番付順に総当たりする東西対抗相撲で一年を締めくくる。これは盛り上がるぞ! 国譲りにかかわる神事タケミカズチとタケミナカタの相撲の再現だ!

 

2017.12